公益財団法人  数学オリンピック財団



第56回国際数学オリンピック(IMO2015)タイ大会

◆参加報告
  第56回国際数学オリンピック(International Mathematical Olympiad:IMO)は、7月4日から16日まで、タイのチェンマイで開催された。参加各国の団長団は、選手団よりも一足早く、7月4日にチェンマイ入りして大会の準備に努め、8日には選手団が現地入りし、翌9日に開会式が行われた。   コンテストは、10日、11日の2日間にわたって行われた。タイはちょうど雨季の蒸し暑い季節であったが、開催地チェンマイは山岳地帯に近く快適な街であった。コンテストもホテルの中の会場で行われたので、体調面での問題は特になかった。選手達はよく頑張り、下記のように、銀メダル3個、銅メダル3個を獲得して、国別順位22位という成績を収めた。   コンテスト後、選手達はエレファントキャンプ(像の動物園)や寺院など地元の観光等をしつつ、外国の選手達との国際交流に努めた。15日に閉会式が行われ、翌16日に日本代表団は現地を離れた。   そして、17日に帰国し文科省を表敬訪問して、下村文部科学大臣に大会結果を報告し、表彰状を授与された。

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日本代表選手の成績
メダル 氏 名 学 校 名 学年
銀メダル 青木  孔 筑波大学附属駒場高等学校 2年 東京都
銀メダル 髙谷 悠太 開成高等学校 1年 神奈川県
銀メダル 佐伯 祐紀 開成高等学校 3年 東京都
銅メダル 的矢 知樹 筑波大学附属駒場高等学校 3年 東京都
銅メダル 篠木 寛鵬 灘高等学校 3年 兵庫県
銅メダル 井上 卓哉 開成高等学校 2年 埼玉県


日本代表団の役員
団長 藤田 岳彦 中央大学理工学部教授
副団長 淺井 康明 (公財)数学オリンピック財団
オブザーバーA 峰岸  龍 東京大学理学部数学科
北村 拓真 東京大学理学部数学科
小松 大樹 東京大学医学部医学科
オブザーバーB 田崎 慶子 (公財)数学オリンピック財団


☆IMO選手達の声

各選手に、IMOタイ大会の感想を書いてもらいました。
①タイ(チェンマイ)の印象
②宿舎について
③コンテストについて
④外国選手との交流について
⑤観光での印象
⑥今回のIMO全体の感想

青木 孔 選手
 ホテルからあまり出ず、外も観光用に作られた場所しか行かなかったので、あまりタイとかチェンマイとかは感じなかった。
気候についても建物やバス内の温度は大体一定で体調管理は湯冷めに気をつければ大丈夫かな程度だった。
 部屋は広かった。トイレが2回詰まったが、言わなくてもすぐに直してくれた。ご飯はバイキング形式だった。 タイをちょっと中国っぽくした感じの料理で、あまり辛くなく、ちゃんと選べば美味しく食べられた。 プールもついていて、身長的に厳しかったがきれいなところだった。 光を少なくした演出に長けていて、特に夜の地上階のバーみたいなところやお別れパーティーの会場の雰囲気はとても良かった。
 うまくいかなかった。1日目はなんとか耐えたが似たようなセットは出ないと踏んだせいで2日目で判断を誤った。
 交流は遊び部屋にいた大体の国とはできた。持っていったゲームまたは卓球をして20ヶ国以上の人と遊んだ。 卓球が強くなった。強豪国はあまり遊び部屋に来なかったので、銀メダルが確定したときは遊んでいた人が祝ってくれて嬉しかった。 ゲーム中は厳しかったけど、みんな優しかった。
 公式の観光の行く場所は結構謎だった。象園が一番楽しかった。象の背に乗れなかったのは心残り。 個人的な観光としてガイドさんに夕方の市場に連れて行ってもらったが大気汚染がひどかった。
 本当に楽しかった。来年はもっと英語力を上げて参加したい。 関係者のみなさん、本当にありがとうございました。

髙谷 悠太 選手
 全体的に気温が高かったが、建物内は思っていたほど暑くなく快適であった。しかし、外では日本よりも虫が多く、蚊に刺されてつらかった。 また、食事は辛い食べ物になれていたこともあり、問題なくおいしくいただくことができた。 タイ米もタイの料理にはよくあっており、特にカレーはおいしかった。
 ホテルということもあり、全体的によかった。シャワールームは湯船が汚く結局湯船は使わなかったが、ベッドの寝心地はよく、スリッパやせっけんなど備品もしっかりしていてよかった。 さらに、海外選手と交流するための Recreation Room から軽食や水を自由に取っていってよかったため、心配していた水についても問題なく生活できた。
 一問勘違いをしていて、他の選手や observer の方に簡単な修正を加えれば解けていたと聞き、 Coordination でも勘違いをしていたため点がほとんど入らず残念であった。 また、他の解けなかった問題は完全に実力不足であったため、もっと鍛えなければならないと思った。 また、コンテスト中、前日は9時ぐらいには寝ていて、寝起きの体調もすぐれていたので、早寝早起きは気持ちいいと分かった。
 JPN の選手が Jungle Speed というゲームを持ってきてくれたため、そのゲームに混ざって海外の選手と一緒に遊ぶことができた。 また、トランプゲームでは Trinidadand Tobago の人たちと President や Mao という知らないゲームを遊ぶことができ楽しかった。 さらに、卓球台が6台ほどおいてあり自由に使うことができた。
 Singapore や Macau、Armenia の選手たちとダブルスで(一方的に思っているだけかもしれないが)良い試合ができ、とても疲れたが面白かった。 (ただ、ポイントをカウントしていないと、終わり時を見失って永遠やってしまうという恐ろしさがあった。)
 前半は、手作りで傘を作っているところや、温泉、お寺に行き、後半は、牛やヤギ、蘭、象を見に行った。 温泉では足湯に入ることができたが、予想以上に水がぬめぬめしていて驚いた。 お寺は時代的にも見た目にもとても日光東照宮に似ていたが、中には土足で入るのが文化の違いを感じた。 また、一番印象に残ったのが象のショーであり、実際に絵を描いたりすることに驚いた。
 時差もあまりなく、環境も整っていて、とても生活しやすかった。海外交流も楽しむことができ、また来年以降も参加したいと思った。

佐伯 祐紀 選手
 屋外は日本よりも暑く、夕方になると大雨が降り出すことが多かった。 室内は冷房が効きすぎて寒いと聞いていたので心配していたが、快適だった。 街中では交通量が非常に多く、空気が悪かったためマスクを着けていた。
 広くて綺麗な部屋に JPN3 と二人で泊まった。食事は風味がキツイものもあったが、基本的には美味しいものが食べられた。 おやつや水は自由に取ってこれて、お湯もきちんと出たので特に生活に困ることは無かった。 またレクリエーションルームという卓球台やボードゲームが置いてある広い部屋と、プールが自由に使えたのでたくさん遊べた。
 コンテストは、ホテルの大きなホール1部屋で行われた。 初日は半袖の上に上着を着て行ったが、会場に入る時に脱がされて焦った。 周りに座っていた他国の選手たちも上着を没収されて困っていたが、会場は特に寒くなかったので問題なかった。 1のaで偶数の場合の構成が全然思いつかなくて焦ったが、bを解いた後もう一度aを考えたらなんとか思いついた。 ここまでだいたい1時間半かかった。その後も2で議論が進まずあまり3を考えられないまま初日は終わった。 2日目は初日に抗議が多かったため、上着の持ち込みが可能になった。コンテストは4、5が得意分野だったので二完したかったが、 4で1時間ほど手こずり、5は解けず、日本選手団と合流するまではかなり落ち込んでいた。 結局、部分点が意外ともらえたのとボーダーの低下により銀メダルがもらえた。 1,2,4,5が例年よりかなり難しく、3と6は例年より取り掛かりやすかったらしいので、もう少し3と6を考えるべきだったかもしれない。
 試験で隣の席だった気さくなイタリア人が、積極的に話かけてきてくれたので仲良くなることが出来た。 レクリエーションルームでは、卓球やカードゲームによって外国選手と交流することができた。 しかし、非英語圏の選手達が英語をペラペラ喋る中、英語をあまり話すことができなくて困ることも多かった。 また、他国のガイドさんや選手が、日本語で話しかけてくることが多くてビックリした。
 観光で行った場所は、チェンマイ中心部とはうって変って自然が豊かでのどかな風景が広がっていた。 特に elephant camp では、象にエサをあげたり、迫力あるショーを見たりしてとても楽しかった。
 突然の難化により、結果が出るまで日本選手団はそわそわしていたが、結果的に全員メダルが取れて良かった。 最初で最後の IMO は、本当に楽しく充実していて、あっという間に終わってしまった。 大会に関わった皆さんには本当に感謝しています。

的矢 知樹 選手
 チェンマイの街に出たのは一回だけであったが、その時、空気が汚いということと、電柱が四角柱であること、電柱に備え付けられている変圧器も直方体であることに気づいた。 バスは黒煙を吐きながら走っていたので、ディーゼルエンジンの排気ガス規制が緩いのだなと感じた。 あまりにも空気が汚かったので、タイでの初めての買い物はマスクであった。 Excursion では、謎の自然教育施設と寺院と傘の工房と象がいっぱいいるところに行った。 分かっていたことではあったが、象は鼻が長いことを実感した。 象が鼻の先端で器用に物を掴んでいるのを見たり、バナナを強奪されてたりしてビックリするばかりであった。
 ホテルは二人部屋であったが、結構広く、またホテルのプールが良く見える位置で、窓からの眺めも悪くは無かった。 トイレットペーパーが、柔らかく本当に有難かった。 外国に行った直後は下痢になる可能性が高く、トイレットペーパーを持っていくというのも重要なのかもしれない。 試験日には非常階段が解放されたが、九階へのアクセスが三台のエレベーターしかなく、そのエレベーターの管理プログラムは余り効率の良いもので無かったこともあり、タイミングが悪いとエレベーターを待つ時間が非常に長かった。 ホテルの食事は基本的にご飯(タイ米)におかずという構造であったため、外国の料理という括りで見れば、割と口に合う部類であったのではないかと思う。 全体的に辛く、味が薄い(この二つは両立する。そもそも辛いは味覚でないし)傾向であった。
 一日目は第一問で一時間半、残りの時間を第二問に費やし、最後の15分くらい第三問に取り組んだという感じであった。 第一問が解けない時間が長く、その間ずっと解けるかどうかドキドキしていたが、ドキドキするだけ無駄であった。 第二問のようなゴリゴリ整数問題を、ちゃんと解ききったという経験がほとんどなかったというのもあり、スタート地点の周りを三時間周回しただけに終わってしまった。 そのため第三問に最後の15分しか時間をかけられなかった。 その第三問は Well-known fact(僕は不勉強なので知らなかったが)を書いたら一点貰うことが出来た。 ジャケットを着てはいけないなどというルールについてゴタゴタしていたが、中はそれほど寒く無く半袖でも何の問題も無かった。 二日目は第四問の幾何を一時間半程度で解き、残りの時間を第五問に費やして終わった。 また第四問が解けない間ドキドキしていたが、ドキドキして良いことは何もない。 第五問は解けるのではないかと思って取り組んだが、初っ端で代入をミスするという大失態を犯し一点も得られなかった。 計算ミスをしては勿体ないということは、小学生の時から言われてきたことである。 第六問は三番級の割には簡単であったようで、全く手を付けなかったことはこれまた勿体ない事であった。
 これはそれなりにできたのではないかと思う。 JPN1 が持ってきたジャングルスピードというカードゲームで様々な国籍の人と遊び、謎の国の人々のトランプゲームに混ぜてもらったり、囲碁を打ったり囲碁を教えたり卓球をしたりして楽しかった。 ただ、recreation room に人がそんなに居なかった点が残念であった。 あとアフリカ系?の人の英語は全く聞き取れない場合が多かった。 もしかしたら英語ではなかったのかもしれない。
⑥ バンコク市内観光が、かなり狭い範囲に縮退してしまうという事件もあったが、本当に楽しかった。一週間の「祭り」であった。

篠木 寛鵬 選手
 チェンマイは思っていたほど暑くはなかった。 ただ、夕方に突然雨が降り出すことが多かった。 チェンマイ独特の赤いタクシーが印象的だった。
 ホテルは2人部屋で、冷房もあり、日本のホテルと似たような感じだった。 食事もおいしく、辛い物ばかりというわけでもなかった。 不便なことは、エレベーターの表示がおかしいことくらいで、とても過ごしやすいところだった。
 今年は2と5が例年より難しかった。1と4も難しめに感じられ、ずいぶん時間を使ってしまい、かなり焦った。 結局、1と4しか解けず、銅メダルになってしまった。 5でミスをして、取りやすい部分点を取れなかったのが残念だった。
 交流するための部屋があり、そこに卓球台やボードゲームなどが置いてあった。 時間があるときは、そこで外国の人たちとゲームをして遊んでいた。 行く前は十分交流ができるか不安もあったが、結構喋ることができてよかった。 日本語で話しかけてくる人が何人かいて驚いた。
 Excursion では、エレファントキャンプや寺などに行った。 エレファントキャンプでゾウに乗ることができなかったのは残念だったが、ゾウのショーは迫力があって面白かった。 寺は金色でとてもきれいだった。靴を脱いで入る場所があったが、そこにいる時に雨が降り出して、置いていた靴がずぶぬれになってしまった。
 普段は決してできないような経験ができ、とても楽しく、充実した1週間だった。 財団の方々、日本選手団の皆さん、ガイドさんをはじめ、IMO に関わったすべての方々、本当にありがとうございました。

井上 卓哉 選手
 全体的に規則に厳しいという印象が強かった。例えば、IMO では指定のジップロックに筆記用具などを入れてコンテスト会場に持ち込む。 去年の大会ではコンテスト会場に鞄を持ち込んでいても特に何も言われなかったが、今年は鞄はおろか上着を着ることすら許されなかった(不評だったのか二日目は持ち込めた。)。 また、宿舎の隣にあったゲームセンターのゲーム機がほとんど壊れていた。 宿舎のエレベーターもうまく機能していなかった。
 ホテルはもちろん冷暖房完備で、シャワーからはお湯が出てきて、食事も口に合うものがそれなりにあったので、生活面はとても過ごしやすかった。 プールやレクリエーションルームもあって、半日ぐらい予定のない日でも楽しく過ごすことができた。
 IMO までの2カ月、IMO 対策のほとんどを苦手の幾何の対策に費やしたが、結局解けなかった。 特に2日目は1問目に幾何がでて時間をかけたのに解けず、多くの時間を無駄にしてしまった。 今振り返ると3問目に出た組み合わせの問題の方が(僕には)簡単に思えるので、そちらに時間をかければよかったのかもしれない。 去年の大会後も同じようなことを思ったので、来年も代表になれたら、今度こそはこの教訓を生かしたい。 コンテスト終了後は絶望的な気分で、メダルももらえないだろうと思っていたが、コーディネーターのみなさんのおかげで何とか銅メダルを獲得することができて良かった。
 レクリエーションルームで多くの国の人と交流することができた。 特に、トリニダード・トバコの選手やアルバニアの選手と仲良くなれた。 また、去年あった何人かの選手とも再会することができた。 アメリカチームの人に“Strange guy”として認識されていて少し嬉しかった。 (去年の点の取り方が奇妙だったので)結局、今年も4Gが解けず、6Cで部分点をもらったので閉会式後に「今年も strange だったね」みたいなことを言われた。
 象に乗れなくて残念だったが、僕より絵心があることは確認できた。(笑) 手違いでバンコク観光が中止になったが、その代わりに人生で初めて空港のラウンジをつかえたのでよかった。(よくない)
 コンテストを除けば楽しいことずくめの1週間だった。代表になることができて良かった。来年もまた挑戦したい。


☆IMOタイ大会の感想

団長 藤田 岳彦

 団長団の重要な役割である問題選定のJury Meetingは、7/5〜7/8の4日間行われた。団長団の席は国別アルファベット順に決められており、日本の両隣り席はイタリア、カザフスタンであったので、両国の団長ならびにコリアの団長と相談しながら問題選定・翻訳を進めていった。 また、アメリカやフィリピンの団長、EGMOでお世話になった方々とも有意義な意見交換を行うことが出来た。
 タイの運営体制はたいへんきちんとしており、例えば、Jury Meetingの会場へ入室の際は、毎回アカウントのチェックがなされていた。
 開会式は、シリントン王女のご臨席に伴ない、厳重な警備体制のもと粛々と行われ、いつもと違う雰囲気であった。
 7/10 試験第一日目は、午前9:30から質疑応答の任に就いた。 日本選手からの質問は無かったが、全体では数多くの質問があり、質疑対応終了予定時刻をはるかに超え、終了したのは午前11:00すぎであった。 その後、団長団はエレファントキャンプ等への観光が組まれていた。
 夕方、観光を終え宿舎のホテルに戻ると“Urgent!!”と言われ、急遽、臨時のJury Meetingが始まった。 通常、1日目の試験終了時に、副団長にも当日の試験問題が配布されているのであるが、数カ国の副団長に2日目の試験問題が配布されてしまうといった手違いが起きてしまった為であった。 どう対処するかの協議の結果、2日目の試験問題の差し替えが決定され、再度の問題選定が行われた(これはIMOの試験にたいする公平実施の強い理念の表れである)。 翻訳作業は、チューター3人と協力しながら深夜まで掛かったが無事に完成させた。
 2日目の試験も終了し、翌日からは3日間Coordinationが行われた。 Coordination自体は順調で、ほとんど想定していた点数を取ることができた。 ただ、問題差替えの影響が、日本の選手にとっては不利に働いてしまった感はあるが、全員が銀メダル・銅メダルを獲得でき、本当によかったと思う。
 総括すると、タイ大会は、問題差替えのアクシデントを除けば全体的に運営面が素晴らしく、将来、日本大会を開催する際の参考になるものが多くあった。

副団長 淺井 康明

 第56回International Mathematical Olympiad(IMO)が、7月3日から7月15日までタイのチェンマイで開催された。
 タイ王国は立憲君主制国家である。しかし、2014年に軍事クーデターが起こって、憲法と議会を廃止し軍事独裁政権が継続しており、現地での政情・混乱がないかどうか心配されたが、チェンマイの街は落ち着いて私たちを迎えてくれた。
 大会は、チェンマイのホテル(Lotus Hotel Pang SuanKaew)を宿舎とし、ホテル内のホールでコンテストが行われた。
昨年の南アフリカ大会の学生寮と比べれば、快適で申し分のない中での大会で、選手達は体調を崩すこともなく、無事に大会を終えることができた。
 開会式には、タイ国の王女(Maha Chakri Sirindhorn)が出席され、チェンマイ大学のコンベンションホールで厳粛な雰囲気の中で行われたことは、今までにない印象的な開会式であった。
 今回の日本代表選手は、高校3年生3名、高校2年生2名、高校1年生1名であった。 このうち、前回までのIMO代表選手に選ばれたことのある生徒は1名だけで、5名の生徒がIMO初参加あったので、大会での生活全般について不安があり、どんな結果が出るのかも心配でもあった。 しかし、結果として全員がメダルを獲得できたことは、何よりも嬉しく大きな喜びであった。
 各チームの団長団が構成するJury Meetingでの問題の決定については、例年のように30題ほどの候補問題の中から最終問題が決定されたとのことであったが、多少出題に偏りがあったようである。 試験が終わった後の選手たちの感想では、必ずしも難易順に問題が並んでいたようでもなく、図形の問題の難しさなどもあって問題選択に戸惑ってしまった生徒もいて、全体としては国別順位22位という残念な結果となってしまったようである。
 IMO2009ドイツ大会以来、私もいろいろな国でのIMO大会に参加させてもらったが、今年のIMO大会においても、成績はもとより選手が外国の選手と交流を深めていく姿を見て、IMOの意義を改めて感じることが出来て非常に嬉しかった。
 また、チェンマイの街を歩きながら、街の看板・屋台、そして人々の暮らしを垣間見て、タイに非常なる親近感を持つことができた。 第2次大戦中の日本に対して、唯一、日本を問い詰めなかった国としても、タイという国を改めて知る意義深いIMOとなった。

オブザーバー 峰岸 龍

 何度もこのようにIMOやEGMOにobserver Aとして参加する機会をいただき、本当にありがたく思っております。 選手よりも先にチェンマイに行き、問題の選択や翻訳に携わりました。 1日目の試験の裏で観光に行き、象に乗る機会がありました。象は本当によいです。 タイの歴史や文化に詳しくなくても、何も頭を使わなくて楽しめる、単純明快なアトラクションで、大変素晴らしいと思いました。 この観光から帰った直後でしたが、運営のミスのせいで2日目の問題をすべて差し替えることになり、慌てて翻訳をしました。
 今年の問題についてですが、ここ10年の中で、最も選手として受けたくない試験であったと思います。 2番と5番がともに難しく、かといって1番と4番が簡単なわけでもない、ただただハードなセットでした。 原因としては、2番が問題の見た目はよいものの、実際に解くと極めて面倒であることを多くの団長が見抜いていなかったこと、問題が差し替わったことの2点が挙げられると思います。 日本の選手はとるべき問題は概ねとれており、その点では文句なしなのですが、やはりイレギュラーな難易度配置の問題たちに流されてしまったようです。 しかし、日本の成績がよかった昨年も、問題のバランスが悪いという意見は多くあり、考えてみれば完全にバランスのとれたセットが出題される年などないのでしょう。
 正直言ってかなりきつい年でした。 試験直後の落ち込んでいる選手に向かって「象に乗れるから」と励ましたのですが、選手たちは象に乗る機会がなかったようで大失敗でした。 これ以外に大会期間中選手と会う機会はなく、料理はただただ辛いし、帰りのバンコク観光もまったくできずに終わり…。 しかし、雨の中向かった文部省の表敬訪問で、自分が成し遂げたことを正しく自身で評価して語る選手の姿は、大変立派でした。 今後も続いていく日本の挑戦の中で、今年が重要な年であったことは間違いないでしょう。 まずは、手数の多い問題や3番級の幾何の対策から、今後の選手の強化方法について考えていこうと思います。

オブザーバー 北村 拓真

 まず問題について、今年は難しいというより手数の多い問題が多かったと思う。 特に顕著なのが、中難易度の2番・5番であった。 2番は基本的なステップを積み重ねれば解ける整数論の問題だが、そのステップ数が大量にあった。 5番は関数方程式の問題で正答まで手数が多く、かつ有効な代入が限られていた。 このような、生徒の立場だと路頭に迷いやすい問題が2つも出題されてしまったのが、今回の low-score IMO を生み出してしまった原因だと思う。 日本の選手もまたこの2問に苦しんだが、よく粘って全員メダルを獲得できた。
 僕は Observer A として翻訳や Coordination を行ったが、大会が基本的によく運営されていて、いろんな作業がしやすかったと思う。 特に Coordination については、現地のスタッフが日本語の答案をよく読みこんでくれていて、さらに日本語の対訳を持っていたので、スムーズに意思疎通ができた。 ただ、採点基準に厳格すぎるきらいがあり(もちろん大会としては大切なことではある)、惜しいアイデアに点が与えられるケースが少なかったように思う。
 生活面は、辛い食べ物が多い以外にほぼ不満はなく快適だった。 チェンマイはタイの北部の都市で山間だが、それでも暑かった。 しかし、ほとんどホテルで生活していたため、ずっと涼しい中で過ごすことができた。 観光は、動物園で象の背中に乗って散策したり、寺院で金ぴかの霊廟・涅槃像を見たりした。 日本ではなかなか体験できないことが多く楽しかった。
 上でも述べたが、厳しい問題のセットの中で、日本の選手はよく健闘したと思う。 ただ、弱点も多く見つかったと思うので、それを乗り越えて次回以降の IMO につなげてほしい。 また僕としては、それら弱点の克服を含めた日本選手の更なる強化に努めていきたいと思う。

オブザーバー 小松 大樹

 はじめは海外ということで、かなり警戒していたのですが、レストランのイスに荷物を置いても盗まれませんでしたし、近くに 7ELEVEN があって便利でしたし、日本にいる時同様にくつろげる場所でした。 日本語を流暢に話す Coordinator もいて、大変新鮮な体験ができました。
 ただし、料理に関しては日本とは大きく違いました。 タイの食べ物はほとんどすべてが辛かったです。 一口に「辛い」と言ってもそれは日本人が想像できるような辛さではなく、ただ汗だくになりながら、「辛い」以外何も考えられなくなる類の辛さでした。 もしこれを読んで下さっている方々がタイに行く機会があったら、ピーマンやパプリカと見分けのつきにくい赤や緑のものがあったら避けた方が無難だ、ということをお伝えしたいです(笑)。
 私は、2,6番の採点、コーディネーションに参加させていただきました。
手数のかかる問題だったり、発想を求められる問題だったりした関係で、誰も完答できていませんでしたが、その中で部分点につながる部分にポイントを絞って英語で説明しました。
 選手として3年前参加したときとは違って、大変緊張しました。 初めてのコーディネーションに際して、たくさんの助言を下さった峰岸・北村両チューター、そして藤田団長に感謝しています。
 今回は、いつもとは傾向の異なった問題が出題され、選手たちにとっては厳しい大会でしたが、それでも全員メダルを獲得できたのは、チューターとして強化に努めてきた立場として嬉しい限りです。 このような機会を与えて下さった方々、そして開催国であるタイの方々に厚く御礼申し上げます。

オブザーバー B 田﨑 慶子

 今回もオブザーバーBとして、IMOタイ大会に参加させていただきました。 ここ数年、IMOが日本から遠い国での開催だったので移動に費やす時間・日数・体力が要求されたが今回は数段 その煩わしさを感じることなく到着できました。
 チェンマイはタイの北部に位置する地方都市ですが、街的にも人々の暮らしにおいても活気がみなぎっているのを肌で感じられました。
 今回、開会式には、タイ国の王女のご臨席が決定されており、当日のセキュリティの厳重さや約束ごとの多さには目を見張るものがありましたが、タイ国が王国であることがあらためて認識させられました。
 宿舎は役員も選手もホテルで快適に過ごすころができました。また、開会式ももちろんですが、閉会式、レセプション等々 ディスプレイ・演出など 国の特徴を生かした表現がされており、タイを味わうことができました。
 さて、 日本選手団の結果は、銀3 銅3 国別順位22位でした。選手各人の思いは毎回の試験終了後の表情でうかがえましたが、 各選手の正直な思いは「悔しい!」「つらい!」強かったと思います。 「全員メダルを獲得したからよかったのでは」との見方もありますが、やはり 春合宿・強化合宿・IMO本番と一緒にいた時間が多かった私にとって、選手の心の内を考えると複雑な思いでした。 でもその「悔しい!」「ショック!」を素直に心に刻むことが今は大切だと感じます。
 オブザーバーBとしてIMOには複数回参加させていただきましたが、状況は異なっていても、悔しい思いをした何人もの選手を見てきていますが、参加初期の頃は、そんな選手にどう声掛けしていいものか迷い、逆にうまく意思疎通ができず悶々と悩んだとすらありました。 実際に試験に臨んだ選手でない私が 選手の本当の心底を理解しようと焦るほうがあさはかなのかもしれません。
 しかし、そんな悔しくてつらい思いを経験した選手が 現在 その思いを糧としながら大きく人間的にも数学力的に成長している姿も事実です。 今回の参加選手がそのような成長を遂げていただければとの切に願うばかりです。





◆国際順位  参加国104ケ国・地域、577名(男子 525 名、女子 52 名)
順位
 1 アメリカ
 2 中国
 3 韓国
 4 北朝鮮
 5 ベトナム
 6 オーストラリア
 7 イラン
 8 ロシア
 9 カナダ
10 シンガポール
11 ウクライナ
12 タイ
13 ルーマニア
14 フランス
15 クロアチア
16 ペルー
17 ポーランド
18 台湾
19 メキシコ
20 ハンガリー、 トルコ
22 日本、 イギリス、 ブラジル
25 カザフスタン
金メダル 39人、  銀メダル  100人、   銅メダル   143人

開催国の Web Site は、下記の通りです。
http://www.imo2015.org/


◆参加者の写真

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開会式を前に
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チェンマイ観光
(ドイスティーブ寺院)
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閉会式を終えて
(日本代表団)

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Farewell partyにて
(ガイドさんと)
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恒例のIMO人文字
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文科省表敬訪問
(下村大臣とともに)